ジョブ型雇用とは?採用におけるメリット・デメリットを解説
企業の競争力強化と個人のキャリア自律の促進を両立させる方法
近年、日本企業の間で導入が進む「ジョブ型雇用」。従来のメンバーシップ型雇用とは異なり、職務内容を明確にするこの制度は、企業の競争力強化や個人のキャリア自律を促進すると言われています。本記事では、ジョブ型雇用の基本的な考え方から、企業側・従業員側それぞれの具体的なメリット、そして導入を検討する上で知っておくべきデメリットまでを詳しく解説していきます。ぜひ、貴社の採用戦略や個人のキャリア形成の参考にしてください。
ジョブ型雇用の概要と採用におけるメリット
ジョブ型雇用は、職務内容と必要なスキルを明確に定めた上で人材を採用・配置する制度です。従来のメンバーシップ型雇用が「人を雇用してから仕事を割り当てる」のに対し、ジョブ型雇用は「仕事に人を割り当てる」という考え方に基づいています。この明確な職務定義が、企業と個人の双方に多くのメリットをもたらします。
企業(組織)側のメリット
企業がジョブ型雇用を導入することで、組織全体の生産性向上や効率的な人材配置といった大きなメリットが期待できます。職務が明確になることで、ムダのない業務遂行が可能になり、企業はより戦略的な人材活用を進めることができるでしょう。
具体的には、職務記述書(ジョブディスクリプション)によって各職務の責任範囲や成果目標が明確になります。これにより、従業員は自分の役割に集中しやすくなり、業務の重複や責任の曖昧さが減少します。たとえば、あるプロジェクトチームにおいて、従来のメンバーシップ型では「みんなで協力」という漠然とした指示だったものが、ジョブ型では「〇〇のデータ分析担当」「△△の報告書作成担当」と明確になるため、それぞれの役割が明確になり、生産性が向上しやすくなります。
- 生産性向上: 職務の明確化により、従業員は自身の専門性を最大限に活かし、無駄なく業務を遂行できるようになります。
- 人件費の最適化: 職務の価値に応じた報酬設定が可能となり、不必要なコストを削減し、費用対効果の高い人材投資が実現します。
従業員(個人)側のメリット
従業員にとってジョブ型雇用は、自身のキャリア形成の明確化や専門性の追求に大きな利点をもたらします。自身のスキルや経験が直接評価されるため、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
例えば、これまで漠然と「総合職」として様々な部署を異動してきた人が、ジョブ型雇用では「データサイエンティスト」として専門性を追求できるようになります。これにより、自身の市場価値を高めることができるだけでなく、成果が報酬に直結するため、労働意欲の向上も期待できます。自分の専門分野で評価されたい、より責任のある職務に挑戦したいと考える人にとって、ジョブ型雇用は非常に魅力的な選択肢となります。
- 専門性の深化: 特定の職務に集中することで、専門知識やスキルを深く掘り下げ、市場価値の高い人材へと成長できます。
- 明確なキャリアパス: 職務内容と連動した評価制度により、自身のキャリアの方向性が明確になり、計画的なスキルアップを図りやすくなります。
メンバーシップ型雇用との比較とジョブ型雇用の推進
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、それぞれ異なる特性を持つ雇用システムです。日本企業で長年主流であったメンバーシップ型が「人を育てて長く雇用する」ことに主眼を置くのに対し、ジョブ型は「特定の職務に最適な人材を配置する」ことを重視します。
項目 | メンバーシップ型雇用 | ジョブ型雇用 |
定義 | 人を基点に、仕事は後から割り振る | 仕事を基点に、仕事に人を割り振る |
職務範囲 | 広範・不明確(異動・転勤あり) | 明確・限定的(職務記述書に明記) |
評価基準 | 勤続年数、年功、職務遂行能力、ポテンシャル | 職務成果、専門スキル |
報酬 | 年功序列、職能給、属人的要素が大きい | 職務給、成果給、市場価値に基づき変動 |
育成 | OJT、ゼネラリスト育成が中心 | 特定職務の専門性向上、自己啓発も重視 |
現在、多くの日本企業がジョブ型雇用への移行を検討・推進している背景には、グローバル競争の激化や多様な人材の確保といった課題があります。特に、IT化やDX化の進展により、高度な専門スキルを持つ人材の需要が高まっている現代において、ジョブ型雇用は企業が競争力を維持・向上させるための重要な経営戦略となりつつあります。
ジョブ型雇用のデメリットと対策
ジョブ型雇用には多くのメリットがある一方で、デメリットや懸念点も存在します。導入を検討する際には、これらの側面も十分に理解し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。
企業(組織)側のデメリット
ジョブ型雇用を導入することで、組織の一体感の希薄化やゼネラリスト育成の困難さが懸念されることがあります。職務が限定されることで、従業員が自身の専門外の業務に関心を持たなくなり、部署間の連携が希薄になる可能性があります。
具体的には、各職務に特化した人材が集まることで、部署間の連携がうまくいかず、縦割りの組織になりやすいという課題が挙げられます。また、特定の職務に限定されるため、幅広い業務経験を積みにくく、将来の経営を担うゼネラリストの育成が難しくなることも考えられます。これらの懸念点に対しては、定期的な部署間交流の促進や、キャリアパスの多様化を図るなどの対策が必要です。
- ゼネラリスト育成の困難さ: 職務が限定されるため、従業員が幅広い経験を積みにくく、将来の幹部候補となる人材の育成が難しくなる可能性があります。
- 組織の一体感の希薄化: 自分の職務範囲外の業務に関心が薄れ、部署間の協力体制や企業文化の醸成が難しくなるリスクがあります。
従業員(個人)側のデメリット
従業員にとってのジョブ型雇用のデメリットは、雇用の不安定さや成果へのプレッシャーです。職務内容が変化したり、その職務が不要になったりした場合、雇用が継続されない可能性が高まります。
たとえば、新しい技術の登場により、自身の専門職務が縮小・消滅する可能性があります。その際、新たな職務への配置転換が困難であれば、解雇されるリスクも生じます。また、常に成果を求められるため、精神的なプレッシャーを感じやすくなる人もいるでしょう。これらの課題に対し、従業員自身が主体的にスキルアップを図る必要性も高まります。
- 雇用の不安定さ: 職務がなくなったり、要求されるスキルレベルを満たせなくなった場合、解雇の可能性も高まる点が挙げられます。
- 成果へのプレッシャー: 成果が直接評価や報酬に影響するため、常に高いパフォーマンスを維持する必要があり、ストレスを感じやすいことがあります。
対策方法としては
- すべてをジョブ型雇用にするのではなく、一部はメンバーシップ型雇用を残しておく
- ジョブ型雇用だったとしても本人の希望や上司の評価など、様々な視点をもとに新たなキャリアを提示する
- リーダー職や管理職の業務も職務記述書に明記する
などが有効です。
まとめ
ジョブ型雇用は、職務の明確化を通じて企業と従業員双方に大きなメリットをもたらす一方で、新たな課題も生じる制度です。導入を検討する企業は、自社の経営戦略や企業文化、従業員の特性などを総合的に考慮し、慎重に進める必要があります。
ジョブ型雇用の導入は、単なる人事制度の変更にとどまらず、組織全体の変革を伴うものです。メリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えるためには、丁寧な計画立案と従業員への十分な説明、そして継続的な改善が不可欠です。この情報が、貴社や皆さんのキャリア形成の一助となれば幸いです。
◆参考
ジョブ型雇用で重要性高まる高校時代のキャリア検討
出典元:三菱総合研究所