中小企業の最低賃金の影響
中小企業が取るべき採用・賃金戦略
1. 2026年度の最低賃金引き上げと労働市場の現状
愛知県の最低賃金1195円改定がもたらす経営へのインパクト
2026年10月から、愛知県の最低賃金は時給1,195円へと引き上げられます。この歴史的な水準への引き上げは、単にパートタイム労働者やアルバイトスタッフの時給計算に留まらず、正社員、契約社員、嘱託社員を含めた社内全体の給与体系、賃金テーブル、そして評価制度の根幹に大きな見直しを迫るものです。中小・零細企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、人件費の高騰はダイレクトに経営基盤を揺るがす問題であり、早急かつ戦略的な対応が求められています。
日本商工会議所および東京商工会議所が発表した「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」の集計結果によると、全国加重平均で最低賃金が引き上げられたことを受け、「最低賃金を下回る従業員がいたため、賃金を引き上げた」と回答した企業の割合は45.1%にのぼり、2年連続で4割台を記録しています 。
さらに、現在の最低賃金水準に対して「負担を感じている」とした企業の割合は76.6%に達し、こちらも年々深刻さを増しています 。これは一部の大企業や特定都市圏だけの問題ではなく、愛知県内をはじめとする全国の中小・零細企業が共通して直面している深刻な構造的課題です
最低賃金引き上げに伴う人件費増への対応実態と収益圧迫のリスク
同調査において、最低賃金引き上げに伴う人件費増に企業がどのように対応したか(複数回答)を見ると、最も多かったのが
「具体的な対応が取れず、収益を圧迫している」の35.0%でした 。
次いで「人件費増加分の製品・サービス価格への転嫁による原資の確保」(31.0%)、
「原材料費等増加分の製品・サービス価格への転嫁による原資の確保」(24.8%)、
「残業時間・シフトの削減(非正規社員含む)」(23.3%)と続いており、
「支払い原資に余力があり、特に影響はない」と回答できた企業はわずか17.4%にとどまっています。
このデータが示す通り、多くの企業が十分な価格転嫁や生産性向上の原資を確保できないまま、収益の圧迫に苦しんでいます。
しかし、対応策として安易に残業時間やシフトを一方的に削減することは、現場の労働環境を悪化させ、かえって従業員の離職を加速させるリスクを孕んでいます。
経営を守るためには、単なるコストカットではなく、収益構造そのものの変革と、限られた原資を有効に配分する評価・賃金戦略の両立が不可欠です。
求人市場における検索賃金(時給換算)の高騰と「検索対象外」の危機
一方で、採用市場の動向に目を向けると、よりシビアな現実が浮き彫りになります。
Indeedなどの主要求人プラットフォームにおける検索賃金(時給換算)は、2019年から実に18%も上昇しています 。
求職者はスマートフォンやPCを使い、瞬時に近隣の求人票を比較検討しています。
数年前の古い「相場観」や「うちの業界ではこれくらいが妥当だ」という感覚で給与を設定している企業は、
それだけで求人検索エンジンや求職者のフィルターに弾かれ、市場から「検索対象外」と見なされる重大なリスクを抱えています。
かつては「経営者の誠意」や「アットホームな職場の雰囲気」、「精神的な努力」でカバーできたわずかな賃金差も、
現代のデジタル化した求人市場では瞬時に数値化され、企業の評価そのものを決定づけるスコアとなっています。
この変化を無視して採用活動を続けることは、どれだけ熱意のある企業であっても、応募者が一集まらないという事態を招く原因となります。
2. 同一労働同一賃金を踏まえた適正な評価・賃金設計のポイント
正社員・非正規社員の給与バランスと「同一労働同一賃金」の基本原則
パート・アルバイトの最低賃金引き上げに対応する際、経営者や人事担当者が同時に直面するのが、正社員や契約社員を含めた社内全体の給与バランスの調整です。
ここで極めて重要な指針となるのが「同一労働同一賃金」という基本的な考え方です。
雇用形態が異なる(正社員であるか、パート・アルバイト・契約社員であるか)という形式的な理由だけで、不合理な待遇差を設けることは労働契約法およびパートタイム・有期雇用労働法によって禁止されています。
基本給、賞与、各種手当(通勤手当、役職手当、皆勤手当など)を決定・支給するにあたっては、
以下の要素を客観的に考慮する必要があります。
- 職務の内容(仕事の内容と責任の程度)
- 職務の内容および配置の変更の範囲(転勤や人事異動、職種変更の有無など)
- その他の事情(就業の実態や継続勤務年数など)
最低賃金が引き上げられた結果、
「アルバイトの時給が上がったのに、長年働いている契約社員や下位等級の正社員の基本給と逆転してしまった」
「正社員と非正規社員の仕事内容の差が曖昧なまま手当に差をつけていたため、不合理と判断されるリスクがある」
といった歪みが生じるケースが後を絶ちません。
こうした不均衡は、社内の不満を高め、既存社員のモチベーション低下や突然の離職に直結します。
納得感を生み出す評価制度構築のための3つのステップ
限られた原資の中で社員の納得感を引き出し、公正な賃金体系を構築するためには、
感覚的な給与決定を脱却し、体系的なステップを踏む必要があります。
職務内容の棚卸しと等級・役割の明確化
正社員、契約社員、パート・アルバイトが実際に日々行っている業務内容、権限の範囲、責任の度合いを細かく書き出し、組織図上で可視化します。
どこに違いがあり、どこが共通しているのかを客観的に整理することがすべての出発点となります。
属人性を排除した客観的な評価基準の設定
「長年在籍しているから」「昔からの慣習だから」「正社員という肩書だから」という属人的な理由ではなく、
実際に発揮されている成果、業務の難易度、プロセスにおける貢献度に基づいた評価項目を設定します。
評価の納得感が高まることで、賃金改定に対する社員の理解も得やすくなります。
手当・賞与の支給根拠の点検と説明責任の徹底
通勤手当や福利厚生、賞与などが特定の雇用形態だけに限定されていないか、
あるいは合理的な説明がつく違いになっているかを点検します。
もし違いを設ける場合は、その理由を就業規則や賃金規程に明記し、全従業員に対して透明性の高い説明を行うことがトラブル防止の鍵となります。
採用活動での工夫点としては以下の3点が有効です。
- 時給換算での市場優位性の確認
- 働く意義と副業の容認
- DXによる労働生産性の工場
具体的には…
indeedなどの求人プラットフォームでは、月給以上に時給換算での比較がなされます。
残業削減とセットで時給単価を上げ、「タイパ(時間対効果)」を重視する層へアピールできます。
給与を上げることが難しい局面でも、副業を解禁し「他で稼ぐスキルを身につけることを応援する」姿勢を見せることで、優秀な人材を惹きつけられるケースが増えています。
賃上げの原資は、生産性の向上からしか生まれません。
AIやロボットの活用を「人がいない前提」で進め、浮いたコストを現場の給与に還元する姿勢を社内外に明示します。
まとめ
企業にとって最大の損失は、売上の減少ではなく「人が採れないことによる事業継続の断念」です。
人手不足によって既存社員の負担が増え、それがさらなる離職を招く「負のスパイラル」に一度陥ると、そこから抜け出すには賃上げ以上のコストが必要になります。
そして統計データが示すのは、「賃上げをしない企業から順番に、採用市場から退場させられている」という厳しい現実です。
厚生労働省の賃金統計データやIndeedの採用市場レポートで最新の給与相場を調べることができます。
入社時の給与だけでなく入社後のキャリアアップや昇給に関する情報、福利厚生についても明記することをお勧めします。
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